週に最低1本映画を観るブログ

毎週最低1本映画を鑑賞してその感想を5点満点で書くブログ。★5つ=一生忘れないレベルの傑作 ★4つ=自信を持って他人に勧められる良作 ★3つ=楽しい時間を過ごせてよかった、という娯楽 ★2つ=他人に勧める気にはならない ★1つ=何が何だかわからない という感じ。観賞に影響を及ぼすような「ネタバレ(オチなど)」は極力避け、必要な場合は「以下ネタバレあり」の記載を入れます。

『ビバリーヒルズ・コップ』★★★☆☆

 

  ホラー映画を2週連続観た上、明日もホラー映画を観ることが確定しているので陽気な奴をいっちょ観たくて視聴。期待通りの毒にも薬にもならないが、気持ちよくなれる80年代の刑事物アクションだった。

 TVCMでよく聞くエレクトロニカのメロディがこの映画のサントラだったということを今日初めて知った。誰もが聞き覚えのある曲だと思う。隙あらば流れてくるボーカル入りのロックミュージック、わかりやすい跳ねっ返りだけど腕利きの刑事が非常識ながらも進めていく捜査、派手なカーアクション、住宅街で遠慮無く後先考えず繰り広げられる銃撃戦、とこれでもかと詰め込んであるが、主演のエディ・マーフィのキャラクターが魅力的なのでうんざりすることはない。珍しいのは、安っぽい色恋沙汰シーンがなかったことぐらいだろうか。

 

 この時代、アフリカ系アメリカ人がアクション物の刑事の主人公、というのがどれだけ新しくて喜ばしかったのかは今となっては想像することしか出来ないが、主人公のキャラクター造形は軽妙かつ切れ者、という今観ても実に気持ちのいいもの。

『探偵はバーにいる』の大泉洋と同様の、話の筋よりキャラでもたせられるタイプである。個人的には、主人公をサポートするふたりの刑事のキャラ、口ひげのオッサンとおバカでミーハーな若者、というタッグは、『名探偵モンク』の刑事二人の元ネタなのかな、と感じた。

 

 ストーリーそのものはぼんやりジムで自転車をこぎながらでも十分理解出来るほどシンプル。先の展開はほとんど読める。解決する事件もそう大した物じゃない。それでも、現代のように家に帰ってからネットでストーリーに隠された意味を探らないと奥の奥まで読み切れないような作品ばかりでなくともいいだろう。

  しかし、これでシリーズ3作目までやるのか・・・・? と一体何をやるのか正直疑問には感じる(笑)。寅さんのようなものだろうか。

『ビートルジュース』★★★☆☆

 

ビートルジュース 20周年記念版 [Blu-ray]

ビートルジュース 20周年記念版 [Blu-ray]

 

  ティム・バートン監督の初期作。ホラーを2作連続して観賞したせいで心がやられていたので、愉快な作品を観たいと選んでみた。

 バートン監督らしいぶっ飛んだ設定とぶっ飛んだ脚本のコメディ。マイケル・キートンの怪演は前評判通り強烈だが、作品全体はいささかまとまりに欠けると言わざるを得ないか。

 

 田舎町の家に住むとある夫婦が亡くなり幽霊になってしまい、しかし仲むつまじい二人だったのでそのままその家で暮らすように。だが、その家にセンス皆無のろくでもない一家が越してきてしまい、家を勝手に大改装し始める。夫婦は、新入り家族の中で唯一まともな娘(ゴシック少女)と親しくなりながら、何とか彼らを追い出そうと画策する・・・・というあらすじ。

 コメディとしてシチュエーションはよく出来ていて、出てくる人物も誰も彼もキャラが立っている。今の三谷幸喜監督あたりが作ったら、綺麗にまとまった作品に仕上がるだろうと感じた。さらに娘役のウィノナ・ライダーがとにかくかわいいので、彼女を観ているだけでも満足感はある。あるのだが・・・・。

 

 メインキャラのビートルジュースが、このコメディシチュエーションのバランスを崩しているのが疑問だった。確かにこのキャラ、むちゃくちゃな外見にやることなすことでたらめ、ちょうど、数年後に監督が作る『バットマン』でのジョーカー、他にも『マスク』あたりの元ネタになっている。この人物は至って面白い。

 しかし、この珍妙なキャラクターが、メインプロットとほぼ絡んでいないのだ。基本的にストーリーを邪魔する以外、何もしていない。本来、引っ越してきた家族の親たちが敵キャラクターになるはずなのだが、途中で闖入してきたビートルジュースが暴走し、状況を引っかき回し、結局彼のほうが悪役になった挙げ句、駆逐される。親たちはなんとなく流れで味方になり、なんとなく一件落着して終わる。

 

 ストーリー冒頭で設定された「この家族の勝手な家改装をなんとかして、大切な家と主人公たちの穏やかな日常を取り戻す」という目的が途中で雲散霧消するので、観ていて迷子になるのだ。場面場面のアイディアは豊富なのだが、それが繋がったとき、一貫した筋になっていない。ビートルジュースが暴走した結果、当初の目的が解消され、主人公夫妻とヒロインが幸せになる、というならすっきりするのに。ヒロインもどうやら成長している様子なのだが、彼女のほうは元々どんな問題を抱えた人物なのかはっきりしないので、こちらも釈然としないエンディングを迎える。

 

 お化け屋敷の本来の主の奮闘と、巻き込まれる少女、そこに現れるトリックスター、というのが元々の構想だったのだと思うが、トリックスターの暴走にシナリオが振り回された結果、トリックスターを面白く見せることに軸が移行してしまい、筋立てが壊れてしまったという印象。とはいえ、気楽に楽しむホラーコメディとして決して悪い出来ではない。感覚的に画面で起きる出来事を受け止めれば充分、といったところか。

『IT/イット ”それ”が見えたら、終わり。』★★★★☆

 

  思うところあってホラーに慣れていこう、ということで先週に引き続き、以前から気になっていたホラー映画を鑑賞。正直、猛烈に恐がりなので前半はジムでトレーニングをしながらおっかなびっくり観る、というぐらいしかできない・・・・。

 感想として、「IT」が意外と物理的存在なのだな、ということに驚いた。基本的にはビックリさせる系のホラーなのでビビリの自分からするとなかなかしんどい。とはいえ、スティーブン・キングらしい「80年代アメリカ郊外系ジュブナイルストーリー」だったのでそこは楽しめた。

 

『ET』『グーニーズ』『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『スタンド・バイ・ミー』、そこから影響を受けた『スーパー8』『ストレンジャー・シングス(ドラマだけど)』『MOTHERシリーズ(ゲームだけど)』『ライフ イズ ストレンジ(ゲームだけど)』『打ち上げ花火、下から見るか、横から見るか(日本だけど)』あたりの系譜、ジュブナイル映画の正統派の形式を踏まえている。

 決してメインストリームにいけない、負け犬の少年少女たち。家庭に問題を抱え、自分にどうすることも出来ない悩みに苛まれている。彼らが、ひと夏の冒険を乗り越えて人として成長する。その成長のきっかけが、奇妙な化け物である「IT」だった、というのが、他の作品との違い。

 

 先にも書いたように、「IT」自体の怖さは割りとベタ。暗いところから突然出てきて、怖い物の姿で怯えさせて、ピエロの姿をした本性(?)を現して食らいついてくる。この「食べる」というのが想像していないアクションだった。もっとじっとり精神的に怖がらせてくるのかと思っていたが、そのまま直球で襲ってくるモンスターなのか、と若干拍子抜けする部分もあった。

 だが、ありとあらゆる手段(スライドの機械まで操って)で頑張って襲ってくるアイディアの豊富さと、その描写の丁寧さ(さすがCGの類いは贅沢に作られていて見飽きない)は、怖いと言うよりは次に何が来るのかと楽しみにさせてくれる作りだった。ずっと観ていると若干面白くなってくる。

 

 どちらかといえば怖いのは、主人公たちを取り巻く親たちのキャラクターのほうだろう。ヒロインの父親のはっきり言わないながらも明らかな匂わせ、異常に干渉してくる母親、過剰ないじめや黒人差別を行う不良たち。田舎町に住む人々の明らかな狂気だが、子どもはその世界しか知らない以上、その狂気には気づけない。

 自分たちの生活、人間関係、信じているもののおかしさは、別の居場所を手に入れないと客観視出来ないのだ。「80年代アメリカ郊外系ジュブナイルストーリー」の面白さは、そんな少年たちの(いつか近い日にきっと乗り越えられる)苦しみをエンタメとして観られるところにある。

 

 正直、「IT」とは何なのか、とか、この街には何があるのか、とか、その前にこの大人たちの異常性はもっと掘り下げられなかったのか、とか(この辺はきっと続編で描かれるのだろうが)、もっと一貫した「IT」という恐怖のテーマ性(この恐怖は何を描こうとしている? ジュブナイル的な側面とより有機的に接続出来なかったか?)など気になる部分はあるが、よく出来た佳作であるのは間違いないだろう。

 果たして続編ではどこまでこの物語が掘り下げられるのか、今から楽しみだ。その前に、原作を読んでしまうかも知れないけれど。

 

IT(1) (文春文庫)

IT(1) (文春文庫)

 

 

『遊星からの物体X』★★★★★

 伝説的なSFホラーということでおっかなびっくり視聴。『寄生獣』などの元ネタだということは知っていて、どんな感じの化け物が出てくるのかも大体知っていた。

 観賞して作品としての美しさ、完成度の高さに驚愕。B級ホラーなんてとんでもない。まごう事なき傑作。

 

 まず、物語が始まって最初に感じたのは絵としての美しさだった。南極の(撮影場所がどこか知らないが)映像としての美しさ、基地内部の静かで人工的な造形。こだわりぶりは『シャイニング』と近いかも知れないが、ずっとエンタテインメントを指向している。無駄のないカット割りが冒頭からずっと恐怖を演出し続ける。

 無駄がない、が全てに徹底されているのが本作の美点だろう。台詞回し、音楽、恐怖演出に至るまで、過剰なところは一切無い。必要最小限で全てのパートを成り立たせている。 べらべらと喋ると緊張感がなくなることをきちんとわかっているので、展開に必要ない怯えの表明や機能しない(無くても成り立つ)セリフは全て外してある。

 

 SFとしてのアイディアは原作に寄るようだが、これも素晴らしい。つい目を引く異形のモンスターデザインが印象に残りがちだが、実際は「となりにいる人間が全く信用出来ない」という不安がテーマになる。現実のシチュエーションでも、「殺人鬼が紛れ込んでいる」などで充分描きうる内容なのだが、SFのアイディアを取り込むことで、一瞬前まで知人だった人間が信用出来ない、という状況を作り出せている。

 いつ何時、人間が人間でなくなるかわからない。隠喩としても面白い。シチュエーションとしては『エイリアン』にかなり近いのだが、描いている内容はこちらのほうが秀逸だろう。ホラーは人間の恐怖、不信、絶望を描けるのがよい。

 

 宇宙からやってきた設定が安直すぎたり、登場人物が大勢いる上にやや混乱気味で誰が今どこでどうしているか若干わかりにくいきらいがあるが、登場人物が必要以上にパニックに陥ったりせず、観客も納得いく論理で思考しているところも好印象。ともすれば単なるビックリ気持ち悪ホラーになりかねない内容を、切実で身近な不安に接続させているのはこうした丁寧さに依るだろう。

 ラストシーンの不穏な空気は、短い尺の映画ならではと言える。もしかすると、白人と黒人がいるという状況も意味があるのだろうか? 他者への不信は、人間がいる限り永遠に終わらないのだ。

『ヴェノム』★★☆☆☆


映画『ヴェノム』日本語吹替版 本編映像<バイノーラル収録バージョン>

 予告編が公開された頃から期待していたのだが、公開された途端、世評を聞いて首を傾げ、まだ観に行っていなかった1作。とはいえ期待と違って面白い、なら問題なかったのだが・・・・。残念ながらそうもいかなかった。

 全体として、構想が固まりきらないままになっているように感じた。シリアスなダークヒーローとしてのヴェノムと、軽妙なバディムービーとしてのヴェノムである。予告編で感じられたのは前者、映画を最後まで見終えた後の印象は後者が近い。前者のノリはDC、後者のノリはMCUなので、両方取りしようと思って失敗した、というところだろうか。

 

 まず、作品冒頭からヴェノムが登場するまでが遅い。遅すぎる。物語としてはヴェノムが主人公・エディと同化してからが盛り上がるのが明らかだし、ヴェノムのキャラクターが面白い作品なのに、なぜかヴェノムの登場を出し惜しむ。おかげで長々と主人公の失敗話を聞かされる羽目になる。

 この失敗話というのもどれをとってもひどい。あたかも有能な切れ者記者のように描写されつつ登場する主人公だが、やらかす失敗があまりにも無為無策、思いつきで暴走して行動した結果、周囲の人間も巻き込んで大自爆をやらかしている。到底共感出来る主人公とは思えないが、だったら徹底して共感出来ない愚か者として描けばいいだろう。しかし実際の映像上は、彼が「負け犬」として明確に描かれるシーンがなかなかやってこない。

 正直言って、早い段階で「明らかに調子に乗っていけいけゴーゴーでスクープゲットしようとした記者がやり過ぎて・・・・」みたいな描写に持ち込んでいれば、彼の人となりを描きつつもっと短い時間でヴェノム登場まで持ち込めたはずだ。主人公が残念オジサンならそれはそれでいいのだ。『アントマン』よろしく。実際、映画中盤以降の主人公の演技はまさしく「残念ダメオジサン」になっており、最初からこれで行けばよかったのに、と惜しく思えてならない。

 

 作品全体の構成についていえば、先にも書いたようにバディ・ムービー感が薄いor遅い。主人公とヴェノムのどつき漫才(世評を借りれば『ど根性ガエル』)になってからは面白いのだから、もっと早い段階で二人主人公状態にして、バディ・ムービーの王道展開に持ち込めばよかった。

「気が合わない奴と共同生活⇒喧嘩⇒第一の事件解決⇒仲良くなるかと思いきや致命的な問題で離反⇒大問題発生⇒再び理解し合い、より強い仲間になって敵と大バトル」

 の明快な構成を作品全体で取れれば、ヴェノムの魅力をもっと前面に出した作品に出来たのだが、だらだらと絞り込めていない主人公の問題点についての描写を続けていたせいで、バディ・ムービーに入るまでおそらく一時間近く掛かっている。これでは間に合わない。

 実際、ヴェノムと合体した後は上記の構成をものすごい駆け足で辿っている。だったら最初からやればよかったのに。そうしたら、ヴェノムと主人公の日常描写や、仲良くなる過程にももっと尺を掛けられたはずだ。

 

 この手の映画の悪役の思想が判然としないのはよくあることなのでまあいいのだが、「何をやりたいのか」「この世界をどうしたいのか」がはっきりしないままマッドサイエンティスト街道を邁進していくので、「なんとなく悪いヤツ」以上になり得ないまま終わってしまっている。

 人類は愚かだからより進歩した生物によって滅ぼされるべきなのだ、的なことを言っていたが、それにしたってよくある奴なので、この物語でしか描けないような設定とは感じられない。何がどう進歩しているのかとか、人類の問題とは何なのかとか、オリジナリティが感じられないと退屈になるだけである。ヒーローものは悪役に魅力が無いと盛り上がりに欠ける。

 

 ヴェノムの寄生設定がガバガバだったり(適合者は珍しいのか誰でもいいのかよくわからない)、最大の悪役がどれぐらい凄い悪役なのかよくわからないままだったり、ヴェノムと主人公の共通点「負け犬」が突然口頭だけで説明されて具体的にどの辺が共通しているのか全くわからなかったり(ヴェノムはヴェノム界では負け犬なのか? そういうのをちゃんと描写したらかなり面白いキャラになったのに)、と細かいところにもよくわからない設定が乱舞している。カーアクションシーンはまあまあ面白かったのだが、だからといって構成の悪さがチャラになるほどではない。

 そして、最後の最後に長々とやった例のアレ(本編ではない)。あの、ヒーロー映画では本編後のおまけがつきものになっているとはいえ、事情を知らない人からするとなんで突然始まったのかさっぱりわからない上、本編との繋がりもなく、更に面白くもない。単なる告知を映画のラストに金魚の糞のようにくっつけるなどあってはならないことだろう。

 ヴェノムのキャラ自体はかわいいし、本性がはっきりしてからのエディも面白かったので、いい素材を美味く調理出来なかった作品、としか言いようがない。残念。

『ヘイル、シーザー!』★★★☆☆

 

  『バスターのバラード』に大変感心したので、同監督作品を観たいということで観賞。残念ながら肩すかしといったところか。

 主演はジョシュ・ブローリン。サノスのあの優しい目で、ハリウッド黄金時代の豪腕プロデューサーを演じる。他にも主役級のスターがぞろぞろ出演しているあたり、監督の人望が窺える。コメディであること、映画愛に満ちていること、いろいろな要素が三谷幸喜作品を想起させた。

 

 コメディとしてはかなり手堅くまとめた作品で上映時間も短く、小品といっていい仕上がり。題材は、映画撮影中の主演スターの誘拐事件を軸に、様々などたばたが癖の強い人物によって繰り広げられていく。一個一個の要素は面白く、印象に残るが、全体として繋がったとき、特に何について描いているというまとまりに欠けている。最後の最後に少しだけ、まとめらしいものもあるはあるのだが、そんなにすっきりした結論が出るわけでもない。

 ひとつひとつのエピソードは全く絡み合ったりしない。誰かの人生に何かの結論が出るわけでもなく、まさに「ハリウッド黄金期のある1日」でしかない。だとすれば100分ちょっとのこの尺はやや長いだろう。もしかしたらこの頃から、監督は短編連作が描きたかったのかも知れない。この映画も、むしろその形式、一人の忙しいプロデューサーの元に訪れる様々な問題を描く群像劇、のほうが似合っていたように思う。

 

 面白いところとしては、劇中劇の「黄金期のハリウッド映画」があるだろう。ざっと見た限りだが、この作中作のシーンに限っては、CGなどを使わず、当時の技術で出来る範囲のことだけで撮影しているように見えた。カメラも物理的にあり得ないところには動かず、背景は手描き、音楽も場合によっては現地での生音、キャストのメイクもいかにも付けひげ、かつら、といった風情。現代のスター、ジョージ・クルーニーらがそうした古典的な方法で作られた映画の中にいるのは、妙に面白かった。

『動物世界 カイジ』★★☆☆☆


《动物世界》Animal World || 周冬雨首演小护士洗头到崩溃 新片搭档易李峰

 「どうぶつせかい」という読みでいいのかわからないが、Netflixに入っていたギャンブル映画。説明文に「じゃんけんが~」と書いてあったので「ん?」と思ったが、調べてみるとそう、公式で許諾が出ている『賭博黙示録カイジ』の限定ジャンケン編の中国での映画化。

 

賭博黙示録カイジ 全13巻 完結コミックセット(ヤングマガジンコミックス)

賭博黙示録カイジ 全13巻 完結コミックセット(ヤングマガジンコミックス)

 

  主人公の名前も字幕では「カイジ」になっている。とはいえ、設定はまるっきり異なるオリジナル。最初は悪くないかと思ったが、終盤になるにつれて疑問符が続々。

 

 まずこのカイジ、ピエロである。別にレトリックではなく、本当にピエロの仕事をしている。さらに、脳の中にピエロが巣くっている、らしい。意味がわからないだろうが本当にそうなのだから仕方が無い。過去の何らかのトラウマで、子どもの頃観たアニメのピエロが頭の中に取り憑いて、人や化け物を惨殺する妄想をカイジに植え付け、時折その世界にトリップさせる。

 この設定自体はそれほど悪い改変とは感じなかった。原作のカイジがギャンブルに狂ったように身を投じるメンタリティは、福本作品特有のナレーションによって増強されて描写されているので、映画では見せ方が難しい。それを「そもそも狂気じみた遊戯への執念があった」というような内面を付け加えるためにオリジナル要素を足すこと自体はアリだろう。実際、冒頭のピエロを描写するシーンはCGの美しさも相まってかなり見応えがあった。

 また、この監督なのか撮影監督なのか、絵作りが非常によい。色合いを強調したヴィヴィッドな画面が、この世界のドラッグに囚われたような危険な匂いを感じさせて面白い。アクションにもセットにも金が掛かっていて、外連味たっぷりの世界観が期待させる。トネガワポジションはなぜかマイケル・ダグラスがやっていたが、これもハマっている。

 

 ただ、よかったのはそこまで。あとはエスポワール号(的な船)に乗った後も退屈し通しだった。基本、カイジのゲームは絵面が(鉄骨渡り以外)派手ではないので映像化が難しいのだが、本作の限定ジャンケンはカタルシスを味わわせるのが特に困難なゲームである。繰り返し、CGを使った丁寧な解説が入るが、一つ一つの行程を丁寧に見せるよりも、映画としてどこか一点にどんでん返しなどの山場を作ったほうが盛り上がったのではないだろうか。

 また、カイジのキャラクターの変更も気になった。本作のカイジ、正直クズではない。仕事に誇りが持てずだらけてはいるが、病気の母親の看病もしているし、好いてくれている看護師の幼馴染みもいるし、頭もいいしで、なんだ、別にそんなに悪いヤツじゃないじゃないか、という気になる。

 確かに映画の主人公として普通に考えれば、これぐらい避けがたい事情があった上でギャンブルに身を投じたほうがよいかも知れないが、なにせカイジのギャンブルは裏切りアリ、騙しアリでギリギリの勝負をするものなのだ。善人よりもダークヒーローのほうがセリフに説得力が出る。

 

 おそらくその補完としてのピエロ設定なのだろうが、この設定も全く機能していない。たまに思い出したようにピエロが取り憑きそうになったりするがそれぐらいで、別に普段のカイジと極端に切り替わった人格になるわけでもない。また、序盤に登場する妄想癖も、特にギャンブル中に登場するわけでもない。せっかくの設定が生かし切れなかったのが残念。

 だいたい、他人が化け物に見える、という設定すらも、時々突然出して画面を盛り上げる以外、何の働きもしていない。映画のオリジナル要素が、限定ジャンケンの場面になると一切役立っていないのだ。冒頭のピエロシーンを観たときは、きっとキメのシーンになるとピエロに変身して黒服をぼこぼこにしたりするのだろうと期待していたのだが、別にそんなこともない。ここまで変えたんだったらいっそそれぐらいのアクション映画にしてしまえばよかったのだが。

 

 はっきり言って、映像としてはオリジナル部分が面白いのだが、そこが何の意味も持っていないので全体としてはちぐはぐなだけで終わってしまっている。監督には才能があると思うので、他の作品も観てみたい気がするのだが。続編ありありでラストシーンに至ったが、次は何するのだろう。ピエロとの二重人格青年のカンフーバトル映画のほうが、個人的には観たいのだが。