『オリエント急行殺人事件(2017)』★★☆☆☆
個人的にはやはりポアロはデヴィッド・スーシェなのだが、それはとりあえず置いておいて作品についての感想。いろいろと疑問が残る演出と脚本だった。
ポアロの芝居も容疑者たちの演技も、映像美にも不満は全くない。さすが名優を集めただけあって過剰でなく抑圧しすぎもせず、胸に刺さる芝居ばかり。一番の売りにしていたジョニー・デップが速攻で死んでしまうのはちょっと面白かったけれど。
ペネロペ・クルスやジュディ・デンチやウィレム・デフォーといった個人的にも好きな役者がぞろぞろ出てきているのも、やはり『オリエント急行』ならではのスターキャスティングだと思う。 映像に関しても、CGは多めではあるものの旅情ミステリとしての情景の美しさをきちんと際立たせていてよかった。
ただ……ミステリとしての見せ方が徹頭徹尾スカしている理由がどうしてもわからなかった。ミステリなら絶対盛り上げるべきはずのポイントが、ことごとく盛り上げられていないのだ。まず遺体発見。なぜあんなにあっさりしているのだろう。よほどショッキングな遺体を出すつもりなのかと思ったら、少し後のシーンであっさり公開。
事件の難点、容疑者全員が非常に怪しいが、全員に犯行が不可能、というところもあまり伝わってこない。ミステリをやるからにはどの部分に謎があるのかがはっきりわからないと客は楽しめないと思うのだが、そこがわかりにくいのだ。
張られた伏線も、ばらばらと散らばっていてどれが重要なのか、整理されていない。容疑者同士の関係性、過去と現在の繋がりも、口頭で説明してしまうのではなくきちんとアイテム、あるいはイベントを設定しておけば、わかりやすく印象深く見せることができたはずだ。
ワトソン役になるオリエント急行の責任者も、あまりワトソン役として機能していなかったのももったいないと思う。彼を使って事件の要点や容疑者の全容を整理すれば、もっとミステリとしての面白さを伝えられたはずなのだ。
結果としてポアロは、この事件を非常に「なんとなく」解決してしまう。少なくとも私にはそう見えた。解決した瞬間、「謎は全て解けた!」というポイントはやはり大事なのだ。いつポアロが何をきっかけに謎を解いたのかが非常に漠然としている。原作を読んだのが非常に前なのでまた読み返してみようと思うが、クリスティがその辺りを上手く描いていないとはどうしても思えないのだ。
そして、これらの「ミステリとして上手く描けていない」というところが何のためになされているのかが、どうしても解せなかった。この原作なら素直に映像化すればミステリとして面白くなるはずなのに。もし、あえてミステリとして描かない、という演出をするのであれば(クリスティファンもクリスティ財団も許してくれないと思うが)、それはそれでアリだと思う。それだけの含意を持たせられるだけの厚みのある作品なのだから。
だが、特にそういうわけでもない。ミステリとしてではなく、奇妙な人間たちのドラマを描く、という形式になっているわけでもない。ではどうしたかったのだろう。不思議で仕方なかった。何か適切な補助線を引けば、この演出も納得いくのかも知れない。私にはよくわからないままだった。