週に最低1本映画を観るブログ

毎週最低1本映画を鑑賞してその感想を5点満点で書くブログ。★5つ=一生忘れないレベルの傑作 ★4つ=自信を持って他人に勧められる良作 ★3つ=楽しい時間を過ごせてよかった、という娯楽 ★2つ=他人に勧める気にはならない ★1つ=何が何だかわからない という感じ。観賞に影響を及ぼすような「ネタバレ(オチなど)」は極力避け、必要な場合は「以下ネタバレあり」の記載を入れます。

『新幹線大爆破』★★★★★

 

新幹線大爆破 [Blu-ray]

新幹線大爆破 [Blu-ray]

 

  傑作と聞いていた昭和の大サスペンス映画。期待を超えるシリアスな展開と熱い仕事人の姿が楽しめる、2時間30分息つく間もない大名作だった。

 

 シナリオはきわめてシンプルで、東京駅出発直後の博多行きひかり109号(覚えてしまった)に、「時速八十キロ以下になると爆発する爆弾」が仕掛けられ、それを巡る犯人、警察、鉄道の三者三様の攻防が描かれている。
 個人的には『名探偵コナン 時計仕掛けの摩天楼』で環状線に仕掛けられた爆弾の元ネタがここにあったのか、とにやりとしてしまう。また、『古畑任三郎』第3シーズン最終話、「最も危険なゲーム」の鉄道司令室をひたすら描く元ネタもここだろう。

 

 本作の秀逸さの最大のポイントは、犯人・警察・鉄道、どこにも「バカ」がいない、というところだと思う。通常この手のサスペンスは、誰かがドジを踏んだりしくじったり、思いもよらない偶然の失態によって事態が変化したりするものだが(観ていると「なんでだよ」と突っ込みたくなる)、そういった愚か者は、この作品には一切登場しない。高倉健演じる犯人とその一味はきわめてクレバーであり、警察も犯人の裏をかこうとしながらも時に直情的に行動する辺り、リアルである。

 

 なぜシナリオに「バカ」が登場してしまうのかと言えば、そのほうが書きやすいから、に尽きる。お話を作るときは果てしなく完璧な計画も作れる(なぜなら犯人も被害者も、シナリオライターが動かすから。不測の事態は起きない)。従って、どこかでほどほどに失敗してくれないと、捕まる展開に持って行きづらい。また、多少のしくじりがないと山場が作りにくい。
 だが、クレバーな計画を作れば作るほど、そこにしくじりを作るのは困難になる。結果的に一番書きやすいのは、計画そのものはパーフェクトだが、人的原因で失敗が生じる、という形になる。この方法をとると「こんな奴仲間に入れなきゃいいのに」とか、「なんでこんな奴が警官やってるんだ」などの苛立ちが観客に生じる。
 
 この映画にはその手の逃げが見られない。犯人が立てた計画は、不測の事態も織り込んだ見事なもの(多少の穴はあったが、非常に時間制限がある中での犯行で、捜査も困難な事件なので、逃げ切る可能性は充分あっただろう)。鉄道側は技術的に可能なすべての手段を使って爆弾を見つけ出そうと努力し、警察はしくじりはするが、それも犯人逮捕を第一目的にしているなら無理もないレベル。そして地道な捜査は最後の最後まで続き、諦めずに策を弄して犯人を追い詰める。それがどこを切り取ってもカッコいいのだ。

 

 ラストシーン、鉄道側の責任者の悲壮な思いが描かれるところで、物語は(ある意味で爆弾事件そのものを超える)最大の盛り上がりを見せる。それは想像もしなかった、「こんな事件に巻き込まれた人間だからこそ感じる感情」で、しかもそれは現実味のある「覚悟」だった。自分が自分を裏切ってしまう、ということに対する壮絶な怒り。
 巨大な事件に翻弄され、職業人としての決意が踏みにじられる。「泣かせ」のために安直に物語を作るなら、こんなラストシーンにせず、簡単な手はいくらでもあっただろう。事件に破壊された人の運命がいくつも並行して描かれているのも秀逸。

 

 事件が大きければ大きいほどリアリティを持たせるのが困難になるのだが、この作品はギリギリのところでクリアしているのだ。この辺り、『シン・ゴジラ』の元ネタでもあるのだろう。恋愛沙汰を練り込んで逃げなかった辺りも見事。

 繰り返しになるが、各キャストの男臭く汗臭いながらも高い演技力が、目に焼き付く。特に犯人役、高倉健山本圭がいい。本物の狂気すら感じさせる。作品の時代と内容上、特撮も不可避だが、そこまで稚拙ではなく、新幹線の特撮に絞り込んでいるので興ざめすることはないだろう。


 文句なく人に勧められるエンタテインメント大作なので、機会があれば是非。