『私は貝になりたい(1958年ドラマ版)』★★★★★
厳密に言うと映画ではない。尺は90分くらい。2000年代に入って中居正広主演でリメイクされた作品の最初のバージョン。この後、同じ主演で映画化されたりしている。テレビ映画といった趣。
終戦からわずか十三年しか経っていないということもあり、戦場へ向かう人の心理や、その周りの人々の発言のニュアンス、戦地での会話の雰囲気に至るまで極めて生々しい。ずるりずるりと引きずり込まれ、明確な悪意もないまま、最も善良な(そして愚かな)人物が最も重い罪を背負わされる、という絶望を、非常に巧みな芝居で描いている。後半ほとんどのシーンは生放送だったとのこと。
ここまでシンプルで切実な緊張感をたたえた戦争映画、今では作りようがないだろうな。感動でも衝撃でも道徳的告発でもなく、描かれているのは関わっている人たちの愚かしさだと思った。