『キャビン』★★★★☆
ホラー映画は基本苦手なので観れないのだが、この作品はいろいろ前評判を聞いていたので視聴。ただし、ジムでバイクをこぎながら。
前評判通りのよく出来た「B級」ホラームービーだった。
この作品には大きな一つの「アイディア」があり、はっきり言ってしまえばそれ一発で保たせているだけの作品である。ただ、そうしたアイディアはそれだけで「イケる!」ような気がしてしまいがちなので、実は丁寧に作り上げる必要がある。この作品はその丁寧な製作に成功した例と言える。
どこかの施設で働く男たちの描写と交錯して、大学生の男女5人がいとこの持っている「キャビン」に泊まりに出かける。やってくるのはビッチっぽいエロい美女、マッチョな脳筋男子(『マイティ・ソー』のクリス・ヘムズワース)、奥手でマジメな女子に切れ者のメガネ、そしてハッパでラリッた友人男子。こいつらがわいわい言いながら人っ子一人いない森の奥のキャビンへと出かける。
ホラーのパーティのテンプレメンバーなのだが、この映画の場合は「それでいい」。二重三重に「ホラー映画とは何なのか」を考えさせてくれる佳作である。どうして彼らは死ななければならないのか。どうしてこういうメンバーでなければならないのか。
当然だが、「お客が望んでいるから」なのだ。若い大学生で馬鹿でいけ好かない奴らなら死んでもそれほど悲しみはない。面子の中で一番誠実な人間は生き延びることもある。ついうっかり魔物を召喚してしまうこともある。しかしそれは「なぜ」なのか。全てはそんな様子を観たい、「お客」の希望に添うため、懸命な努力が制作側に求められているからなのだ。
ネタバレをせずに語ることが困難な映画なのでこんな書き方になってしまうが、まさかのあの人のゲスト出演も含めて最後まで楽しく観られる映画だった。ちなみにほぼ怖くはない。
************以下、ネタバレ********************
さて、スプラッタホラー映画ほど観客の求めるものが明確なジャンルは珍しいと思うが、それを正面から笑いに変えるため、作り上げられたのがこの作品である。世界の全てのホラー映画(的シチュエーションでの死)は、実は超古代の神々への生け贄を捧げるために周到に作り上げられたものだった(エンシエント・ワンの元ネタって何だろう。クトゥルフだろうか)。もちろんこの荒ぶる神々とは、身勝手なホラー映画ファンたちのことに他ならない。
思ったようなシチュエーションで好みの怪物に血まみれで、馬鹿な大学生が程よくエロも交えつつ殺され、そしてそれが面白くないと暴れ回る。神々の要望を聞くためには命がけである。あらゆる先端技術が必要になる。
この映画が面白いのは、そのアイディアを使いながらも、同時に最終的に不気味で厭な感覚を観客に植え付けることに成功しているところにある。単なるコメディとして作ることも容易だったはずだが、この馬鹿馬鹿しい構図を「古代から続いている儀式が長い年月を経て辿り着いた形式」として、きちんと意味を持つ設定に仕上げているのだ。
最終的には、儀式をお遊びとしてないがしろにし出していた驕れる人間たちが、結局罰せられることとなる。これもまた、ホラーの構図になっている。傑作とまではいわないが、よく出来た佳作だ。
・・・・『宇宙人ポール』といい、シガニー・ウィーバーはこういうカメオ出演が好きなのだろうか?