『鉄男』★★★☆☆
以前から気になっていたシリーズ。内容は全く知らなかったが、『ウルトラQ』的な感じかな、ぐらいにイメージしていた。
起きる事件は大体想像通りだったが、想定よりはかなりカルトな内容。突然、とある男の肌を突き破って体内から金属が噴き出てくる。動揺し、女の元に逃げ込むなどするが、どうすることも出来ない。そして男の闘いが始まる、といった物語。
セリフはほとんど後半に至るまでなく、映像もモノクロに徹している。この表現が非常に効果的で、金属の美しさを描けている。おそらく低予算なので、カラーで撮ったら相当しょぼくれた、昔の仮面ライダーの怪人のようなことになっていただろうが、モノクロになれば本物でも偽物でもそれほど気にならない。
誰もがニキビやおできなどの吹き出物への不快感、あるいはガンに対する恐怖心は抱えているものだが、それを異形の怪人へと上手く繋げている。エイリアンやターミネーターなどの数多くの元ネタがあるだろうが、最大のそれはカフカの『変身』だろう。「平凡なサラリーマンのAはある朝、目を覚ますと身体から金属が生えるようになっていた」。理由や意味などは求める必要がない。生理的不快感と、「格好良さ」を両立してしまっているのが上手い。
だが、映画としてはかなりアングラ色が強い。性についての描写もだが、首尾一貫した物語性もなく、ショッキングな映像と奇妙な熱量が押し寄せてくるような作品。なので、あまり間口を広くは取っていない。個人的にはそうしたアングラ描写(客への娯楽の供給以上に自分のやりたい表現を押しつける見せ方)が苦手なので、他人にはあまり薦める気にはならない。
とはいえ、映像表現としては面白いところが多い。写真のつなぎ合わせで高速移動を表現するアイディアは、こうした作風でないと使えないものだろう。それに、こうした作品は、「ここでしか描けない感情」を描写出来れば十分だと考える。塚本監督の他作品も観たくなった。ここから、もっとメジャーを意識するとどんなものを撮るのだろう。