『狼たちの午後』★★★★☆
この時代の丁寧なサスペンス映画は大好きなので期待しながら視聴。想像通り、シンプルだがアイディアに満ち溢れた佳作。
アル・パチーノとジョン・カザールの演じる犯人二人は、銀行強盗ながらどこまでも抜けていて、計画は立ててはいるものの、到底周到とはいえない甘さが冒頭から露呈しまくり。最終的には人質たちとも打ち解けてしまう妙な人間的魅力がある。
一応実話を元にしているらしく、ストーリー中に発生する妙な出来事の生っぽさは非常に面白い。この時代的には、テレビ中継されている犯罪、というのが面白かったのだろう。
犯人がヒーロー扱いされてしまうのも、今となってはありきたりだが、上記のようにあくまで偶然、劇場型犯罪になってしまっただけで、本来はチンケで小規模な銀行強盗にすぎなかったあたりが他とは違う味わいを放っている。
別に彼らは有名になりたかったわけでもなんでもなく、奇妙な時代的情熱と重なり合って結果、こういうことになってしまった。もてはやす側ももてはやされる側も、困惑しながら面白がっているのがシチュエーションとして可笑しい。これは一種のコメディいだろう。
動機は「金がないから」。当たり前のことを当たり前のようにやっただけで、別に娯楽にするつもりなど全くなかったのに、やっているうちにどんどん妄念が膨れ上がり暴走していく愚かしさ、リアリティは『太陽を盗んだ男』と近いものを感じた。
BGMはなし。演出もドキュメンタリーチックで、常に冷めた視線が主人公たちを追いかけている。これを現代で描いたらどんな物語になるだろうか。