週に最低1本映画を観るブログ

毎週最低1本映画を鑑賞してその感想を5点満点で書くブログ。★5つ=一生忘れないレベルの傑作 ★4つ=自信を持って他人に勧められる良作 ★3つ=楽しい時間を過ごせてよかった、という娯楽 ★2つ=他人に勧める気にはならない ★1つ=何が何だかわからない という感じ。観賞に影響を及ぼすような「ネタバレ(オチなど)」は極力避け、必要な場合は「以下ネタバレあり」の記載を入れます。

『裸の銃を持つ男』★★★☆☆

 

 力業で笑わせていくストロングスタイルコメディ

 銃(じゅう)じゃなくて銃(ガン)だってアマゾンで初めて知った。

 このポスターのパロディを某所で観たことがあり、名作コメディと聞いていたため期待して視聴。あらすじからすると『ピンクパンサー』的な感じかな、と思っていたが、だいたいその通りだった。

 

 話としては、ポンコツ警部が犯罪捜査で引き起こすドタバタを描くコメディ、という以上でも以下でもない内容。ポスターの警部は外見の通りダンディでイケメンで声もイケボ、というモテそうな人物なのだが、その実体は思い込みと失態を繰り返しながら迷惑をまき散らす、しかしどうにも憎めない人物。彼がとある事件に巻き込まれ・・・・という感じ。

 細かいギャグはどれも面白い。ただ、ひねってあるというよりは「そこまでやるか!」とこちらの予想を超えてくるタイプなので、画期的ではなく、ドリフ的な笑いをやり過ぎていく感じ。一つか二つで普通なら終わらせるところを三つ、四つ、と重ねていくから次第に笑えてくる。普通のネタでも力業で笑わせることは可能なのだ。ここらでやめとくか、というのをさらに超えていくと発生する笑いというのもあるものだ、と再確認。

 

 ただ、『ピンクパンサー』のイギリス的な洒脱でちょっとブラックな笑いと違って、玉はあくまでストレート。身も蓋もない下ネタも散見されてそこでは少々醒める。お気楽コメディとしては充分なのかも知れないが、やはり下ネタはあえて上品にやるとか、物凄く遠回しにするとか、暗喩として機能するようにしないと時間の経過には耐えない物だな、と感じる。

 かといって、キャラクターに魅力があるわけではない。主人公の警部は愛嬌はあるが、007的な古めかしいフェミニストで、ヒロインもそれに簡単に応じてくれるテンプレご都合主義キャラ。主人公の相方的な上司や部下も、瞬間的なリアクションを返す以外は「こういうひとだ」と明確にしづらい薄っぺらな設定。

 『ピンクパンサー』の場合、「ポンコツだけど偶然事件を解決してしまい自分を名刑事だと勘違いしている」主人公と、「主人公にイライラし過ぎておかしくなった」上司、というコメディを走らせ続ける仕組みがキャラの性格に組み込まれていたので強かった。続編も2つあるみたいだけど、観るほどではないかな・・・・。でも、しっかり笑わせてもらいました。

『トレインスポッティング』★★★★☆

 

若いからこそ逃れられない落とし穴の物語

 ダニー・ボイル監督作品は『スラムドッグ$ミリオネア』や『スティーブ・ジョブズ』が素晴らしかったので(どちらも★5つ)、結構楽しみに見始めた。

 確かにハードでかさつきながらも切実に生きるスコットランドの若者たちの姿を活写していて秀逸、なのだが、もう一声欲しかった、というところで★4つに。

 

 ベクトルとしては「殺伐とした若者たちの形にならない反抗」といったところ。こういったジャンルではディテールが面白いかどうかが鍵になるが、ドラッグに耽溺し壊れていく生活、それ以前にそもそも破綻している家族関係、友人知人ことごとく狂気じみている行き詰まり感、起きること全てがテンプレを超えたうんざりで、次第に笑えてくるところすらある。

 突発的な暴力と淡々とした味わいはたけし映画のよう、途中挿入される幻覚的なイメージややたらと目にこびりつく不安を誘う画面の作りはキューブリックのよう、感情の方向は『ファイト・クラブ』的と類似した作風は思いつくが、一つ特徴的なのは、舞台がスコットランドというところなのかも知れない。

 イギリスといえばロンドン近郊、未だに「遙か山の彼方」というイメージの強い土地(『スカイフォール』での007の出生地を思い出す)で生まれ育った、仕事も未来も夢もない人の人生観は、現在の閉塞感ある日本人でもなかなか想像出来ないものだろう。

 

 一貫した物語性は薄い。発作的なきっかけで事態は展開する。メインの筋立ては一応「主人公の更正」なのだろうが、基本的には「どれだけゴミためから逃げようとしてもゴミためが追いかけてきて囚われる」というお話で、最後の最後には自らゴミになり、終わる物語だろう。このどうしようもなさは、『キッズ・リターン』の観賞後感に近い。「クズでも立ち直れる」「希望はある」なんていうおためごかしは、彼らと同じように生きる人々には不要なのだ。「救いはない。けれど生きていくしかない」。

 もうひとつ食い足りない感は、むしろこれらの類似作のほうが、暴力も絶望も上回っているからかも知れない。20年後の後編を見るのが今から楽しみ。

『トランスポーター』★★★★☆

 

トランスポーター (字幕版)

トランスポーター (字幕版)

 

突然の超展開もまたよし、のステイサムアクション

  いっちょアクション映画を、と思い選択。安定のジェイソン・ステイサムアクション映画で、かなりきっちり細かい心理の流れを作り込んでいるので好印象。主人公のキャラも上々なので、シリーズ化もうなずける。

 

 ステイサムの作品としては比較的初期の作。とにかく職人気質の闇社会の「運び屋」が、とある「荷物」と出会ったことをきっかけに起こる事件を描いている。

 この主人公の仕事人ぶりが冒頭シーンから炸裂するが、このキャラの描き方はリュック・ベッソンの脚本らしさを強く感じる。まずはとにかく、こいつはどんな奴なのかを強烈なエピソードとともにさらりと冒頭10分の間に描き出す。その哲学は「ドライバー版ブラックジャック」とも思ったが、よく考えたらブラックジャック自体が「医者×闇稼業」という斬新な組み合わせから成り立っているので、主客が逆だろう(笑)。

 そしてこじゃれたフランスの風景、フランス人とのこじゃれた会話、からのじわりじわりと見せるフェミニストらしさ(古典的アクション映画の主人公は女性との関わり方にしくじって物語が進む)、爆発的アクション展開、と、きっちり無駄なく娯楽を続けていく。

 

 正直、「風光明媚なフランスの観光地で闇の稼業をクールに行うイケメンがアジア系美女と犯罪に巻き込まれての逃避行アクション」というのは、アメリカ人男性の妄念を煮染めたような内容とも言えるが、ステイサムの抑えた演技と主人公のキャラクター性、無駄のないスタイリッシュなストーリーテリングが、やっていることほどの馬鹿馬鹿しさは感じさせない。

 そして、ラストアクション。終盤20分ほどのバトルは、ある意味目を疑う展開だった(笑)。説明は困難だが、突然、超展開を始めるところがある。冒頭から比較的手堅く作ることで終盤の暴走を許容させるあたり、ちょっと『シン・ゴジラ』的かも知れない。

 とはいえ、アクションの内容もアイディア満載で楽しい。短めの尺もちょうどよく、土曜の昼に気楽に観るには理想的映画。次作も楽しみ。

『怪盗グルーの月泥棒』★★★★★

 

怪盗グルーの月泥棒 (吹替版)
 

子ども向けだからといって逃げを打たなかった秀作

  短くて楽しい作品観たいな、ということで選択。とにかく主役の声が笑福亭鶴瓶師匠(大好き)である、ということ、黄色くて一杯いるのがミニオンという名前だ、ということだけ知った状態で観賞。

 期待通りの愉快で楽しい作品。個人的には鶴瓶師匠が声優として思っていたより上手だということに感心した。

 

 内容は至ってシンプルで、主人公である怪盗グルーが月を盗むために奔走する、というお話。今となってはミニオンの人気が非常に高いが、キャラクターとしてはグルーがとても魅力的。

 今ひとつパッとしない、ドジだけれども切れるところは切れている怪盗。『名探偵ホームズ』のモリアーティ教授を思い出させる。

  パッケージにはなかなか映ってないなあ。

 そのスタイルも、シンプルながら今時らしい格好良さがある。マントとかシルクハットとかではなく、スタイリッシュなブラックのニットスタイル、という意外なおしゃれ加減。それなりの技術力と才能、機転はあるのに、どうにも運が悪くて上手くいかないのも好印象。

 そしてそんなキャラクターに、鶴瓶師匠の声が意外なほどハマる。最初は「めっちゃつるべやん」としか聞こえなかったが、さすがベテランだけあってじわじわと浸透してくる。原語ではスティーブ・カレルが声を当てていたが、彼は嫌みっぽいエリート風のコメディアンなので、かなり印象が違ってくる。師匠の声だと「外見はおしゃれだけれども根っこは柄が悪い関西のおっちゃん」にしかならない(笑)。

 けれど、それが結果として上手くいっている。落語とバラエティ番組仕込みのとても生っぽい芝居を、このポップなアニメに入れ込んでいるのだ。ちょっとした瞬間の切り返し、めんどくさそうな言い回しが芝居クサくない、本当にうんざりしている大人の声になっていて、これが実に面白い。作り物の世界の中で、ちゃんと疲れている面白い大人が1人いる、という存在感を作り出すことに成功している。師匠、相当練習してから臨んだんじゃないだろうか。

 

 筋書きは先の通りで、もう一人の怪盗との対決を主軸にしつつ、子どもたちとの触れ合いを絡めていく、という流れ。この「子どもたちとの触れ合い」もわりとうんざりする題材なのだが、子どものキャラもグルーのキャラも、あざとくならない本当にギリギリのラインをすり抜けているので、「ありきたりな感動物」に堕さずに済んでいる(もちろん吹き替えの芝居の秀逸さのおかげでもある)。

 そもそもこの手のいい話は、オトナは望むのかも知れないが別に子どもが観ていたところで感動する内容では無いと思う。大して面白くもないし。ちゃんとひとつひとつの笑いを細かいアイディアを込めつつ練り込み、その中にまぶすようにしてグルーと子どもたちの関係性の変化を見せていくことで、「感動させるためにキャラを対立させる」ような無理やりの盛り上げを作らずに済んでいる。

 ストーリー上で明示したり説明したりしていないが、登場人物全員にきちんと背景があり、その結果として現在の行動に至っている。その事実が、キャラクターデザインや表情、演技、暮らしている場所など、細かな描写によってきちんと伝わってくる。しかもオリジナリティある描き方で。この仕事をするかしないかで、お話の価値は大きく変わってくるものだ。

 

 続編があと3本もある。観るのが今から楽しみ。

『イップ・マン 序章』★★★★☆

 

イップ・マン 序章 [DVD]

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日本が悪役だからといって観ないのは勿体ない王道アクション

  『ローグ・ワン』のテレビ放送をチラッと見て、ドニー・イェンの格好良さにたまらなくなり観賞。ゆったりとしたスタートの作品だったが、偉大なる主人公キャラクターの立ち上げとして完璧な作りだった。

 

 中国のとある街に住む武術の達人・葉問が、静かに過ごしたいにもかかわらずその圧倒的実力、そして辛く暗い時代によって闘わずにいられなくなってしまう、という物語。とにかく先に書いたように、主人公のキャラクターの見せ方がパーフェクトだった。

 バトル物というのはとかく展開が安直になりがちで、闘わせておけばOKぐらいに思う向きも多いかも知れないが、だからこそアイディアが必要になる。どうやれば主人公が、他の人間よりも強い人間に見えるのか。それをナチュラルに観客に見せられるのか。

 同じ武術を使い、飛び道具を使用せずに頭から終わりまで闘っている映画なのにどうやったら退屈させずに物語を進められるか。ただ殴り合っているだけの映画など、あっという間に飽きられてしまうのだ。

 

 その点、本作はあくまで感情を抑えた武術の達人である主人公が、時代の奔流に飲まれつつ少しずつ、感情を露わにし、闘わなければならない状況を一つずつ描いており、強者としての彼の偉大さを演出できている。

 のみならず、各バトルシーン内でのアクションの組み方、広げ方、くわえてただ闘うだけでない周囲の人物とのドラマも緻密に組み上げられている。バトルシーンを感情描写の手段としてきちんと使えている(意味の無い戦闘のための戦闘がない)、上手い作品である。バトル物少年漫画を描きたい人は、カッコイイ主人公の描き方の参考として是非観るべき。

 

 これだけの巧みな作品が、日本国内であまりプロモートされていないのは、悪役が日本軍だから、なのだろう。作中では当時、中国国内に進軍していた日本軍の将校らによる非常に残虐な行為が頻出する(本作の主人公は実在の人物で、日本軍によって家を奪われたのも史実)。

 しかしながら、登場する日本人キャラクターたちは薄っぺらなモンスターとしては描かれず、大物・小物の違いはあれど、あくまで「人間」として描かれている。メインの悪役である三浦の造形は、『地獄の黙示録』のカーツ大佐的な、身勝手ながら一方的な哲学が貫かれていて興味深く、ある種の魅力がある。安易な狂気の化け物にしなかったのは制作側の誠意と言える。

 

 また、日本人役を演じているのはいずれも日本人俳優で、日本に関する描写についても筆者が観た範囲では、不自然なところは見受けられなかった(もちろん正確な史実まではわからないが、あくまで日本語の使い方、キャラの立ち居振る舞いなどについて)。

 外国映画で日本語のセリフが出てくるときは『ブレード・ランナー』を引くまでもなく頭を抱えたくなる物がほとんどだが(『キル・ビル』すら酷かったのにはおそれいった)、本作の日本語のセリフは、きちんと日本語の演技として成り立つレベルになっている点で高く評価出来るだろう。

 

 ストーリー全体を貫く主題がもう少し明確なら見応えがもう一段階上がったと思うのだが(大いなる力には大いなる責任が伴う、だろうか?)、武術が人々の運命を変えていく様そのものが胸を撃つ。また、サブキャラクターが誰も彼もいい人物像なのも秀逸(主人公の友人である工場主や通訳、サブ悪役の北方武術の達人も面白い)。続編2作を観るのがこれから楽しみだ。

『キャノンボール』★★☆☆☆

 

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収拾つかず、の感は否めないドタバタカーレース

  タイトルは未だに類似の物を随所で見かける、80年代のカーアクション映画。

 バート・レイノルズロジャー・ムーアジャッキー・チェンなど本気でスターが出まくり(ジャッキーの名前が筆頭に来ている情報も多いが、彼は脇役である。主役はバート・レイノルズ)にもかかわらず、半端ないB級感あふれる1作だった・・・・憎みきれないけれど。

 

 内容は正直、『デス・レース2000』と五十歩百歩といったところ。アメリカに実在した非合法カーレース、キャノンボール(大砲の弾の意)を題材にして、珍妙な参加者たちが続々集結し、ゴールへ向けてひた走る。お色気シーンあり、アクションシーンあり、笑いあり、涙はほんのちょっとだけあり(1セリフぐらい)、といった盛りだくさんの娯楽作品。

 なのだが、いかんせんまとまりが全く無い。登場人物が多すぎて処理が追いつかなかったのか、話の軸がさっぱり見当たらず、目先の出来事だけで保たせていくつくりである。豪華俳優陣でそれでもある程度は観られるのだが、今の客からすれば普通知っているのはジャッキーぐらいだろう。

 ロジャー・ムーアがなぜか「ロジャー・ムーア役」として登場し、当時の007役だけあってパロディめいた描写も頻出、意外と身体を張って笑いを取りに行っていてそこは少し楽しめたが、それぐらいか。ジャッキーのアクションもパッとしない。カーアクションもそれほど目を見張るほどのものもない。言うまでもないが、カーレースとしても緊張感は1ミリもない。観ればわかるが、レース自体ほとんど最終的には意味を成さない構造になっている。

 

 気のいい面白いオッサンたちが続々出てくるキャラクター映画としての良さはなくはないが、その他はバカ映画、それも頭使わずに作り、頭使わずに観る程度のバカ映画である。主人公たちがなんだかんだで愛着の湧く人物像に仕上がっているところは悪くない、というぐらいだろうか。

 ちなみに、スタッフロールにはNG集あり。これがみんな楽しげで、意外とよかった。

『メリー・ポピンズ リターンズ』★★★★☆


「メリー・ポピンズ リターンズ」本予告編

古典を今創る意味を考え抜いた、新たな古典ミュージカル

 実は前作を観ていない。曲はいくつも知っているのだが、ストーリー展開は全く理解していない状態で、続編を観に行ってみた。主な目当ては贔屓のコリン・ファース

 以前の『プー』でうーん、となったことから不安があったのだが、綺麗さっぱりそんな気持ちを払拭してくれる快作だった。ザ・伝統的ミュージカル映画。とってもオールドスクール。しかしそれがよい。

 

 正直言えば、おそらく、ストーリーは前作を観ていたほうがよくわかる・・・・というより、もっと楽しくなると思われる。前作の出来事を踏まえたシーンや小道具、登場人物が多数登場するので、それをわかってみればもっと感動出来ただろう。

 ただ、それなしにしてもあの手この手を使って昔懐かしのミュージカル映画を楽しめる。CGも撮影方法も技術としては高度なのだろうが、あえてセットっぽい雰囲気の町並み&ライティング、あえて昔っぽいダンス、あえて懐かしのハリウッド映画らしい曲調、とあくまで昔のミュージカル映画の枠から出ない。たとえるなら伝統芸能のやり方だろう。

 

 最初は、「今あえて古風なミュージカル映画を作る意味とは・・・・」なんてことも頭をよぎったのだが、観ているうちに次第に笑顔になってくる。幸福感が胸に湧き上がってくる。最近の映画では、なかなかこんな直球は投げてこない。だったら今、この作品を作る意味はあるのだろう。

 更に言えば、物語の舞台を大恐慌時代に設定しているのは、「今描くべきメリー・ポピンズ」と言えるのだと思う。怒りや悲しみ、絶望、資本家からの簒奪、自立を促される子どもたち。そこに現れた彼女は「昔とまるで変わっていない」。不安の時代の人々を前にしたメリー・ポピンズの凜とした姿は、観ているだけで心落ち着く。

 

 驚いたのは、「過去の遺産」と呼ぶべき名曲の数々を一切使わず、きちんと新作で映画一本を作り上げてみせたところだった。その手を使えば容易に客を喜ばせることが出来るし、続編物はそこが優位なのに、カバー曲、アレンジ曲すらない。そこのノスタルジーに安易に寄りかからず、「新しいスタンダード」を作り上げてやろう、という気概も見事。

 エミリー・ブラントの歌唱力にも驚いたが、個人的に一番笑ったのは安定のメリル・ストリープの登場シーン。歌も上手いし動きもいいし、曲もよかった。そして前作を観ていた人にはたまらない、あのサプライズ。この時代のロンドンを舞台にされるだけで個人的には点が甘くなりがちなのだが、それにプラスして「ノスタルジー」や「泣かせ」に頼らない丁寧な仕事が大きな幸福感をもたらしてくれた。

 

 この映画、おそらく大人が観ると論理の飛躍を感じる部分はたくさんあるのだが、それでいいのだ。メリー・ポピンズは児童文学であり、理屈よりも意味、答えよりも問いかけを大切にしている。大人向けに逃げず、きちんと1作目のスピリットを引き継いだ(んだと思う。これから観ます)五歳から楽しめる続編。秀逸です。