週に最低1本映画を観るブログ

毎週最低1本映画を鑑賞してその感想を5点満点で書くブログ。★5つ=一生忘れないレベルの傑作 ★4つ=自信を持って他人に勧められる良作 ★3つ=楽しい時間を過ごせてよかった、という娯楽 ★2つ=他人に勧める気にはならない ★1つ=何が何だかわからない という感じ。観賞に影響を及ぼすような「ネタバレ(オチなど)」は極力避け、必要な場合は「以下ネタバレあり」の記載を入れます。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』★★★★★


『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』本編映像

タイトル通り、ハリウッドのおとぎ話。画面の隅々まで行き届いた凄みがラストまで続く、タランティーノ全部入り作品

あらすじ

テレビ俳優として人気のピークを過ぎ、映画スターへの転身を目指すリック・ダルトンと、リックを支える付き人でスタントマンのクリス・ブース。目まぐるしく変化するエンタテインメント業界で生き抜くことに神経をすり減らすリックと、いつも自分らしさを失わないクリフは対照的だったが、2人は固い友情で結ばれていた。最近、リックの暮らす家の隣には、「ローズマリーの赤ちゃん」などを手がけて一躍時代の寵児となった気鋭の映画監督ロマン・ポランスキーと、その妻で新進女優のシャロン・テートが引っ越してきていた。今まさに光り輝いているポランスキー夫妻を目の当たりにしたリックは、自分も俳優として再び輝くため、イタリアでマカロニ・ウエスタン映画に出演することを決意する。そして1969年8月9日、彼らの人生を巻き込み、ある事件が発生する。(映画.comより)

 

 待望の新作。とはいえ、実は前作『ヘイトフル・エイト』は面白かったけれど密室劇にしては長すぎたこともあり、果たして今回はどうなるか、と期待半分、危ぶみ半分という感じだった。

 結論から言うと見事な佳品。見事すぎてすごさがよくわからないくらい上手い。まずはネタバレナシで書く。

 

 ストーリーは確かに上記のあらすじ通りなのだが、もちろんタランティーノ作品なので安直なお涙頂戴劇にはならない。頻繁に挟まる回想、意表を突く編集、唐突なナレーション、挿入される劇中劇。『パルプフィクション』ほど難解ではないにしろ、物語る手段を総動員して、男二人の友情が描き出されていく。

 二人とも少し愚かで、暴力的で、でも憎むことの出来ない男。確かにこの年齢になったこの二人の名優でなければ演じられなかっただろう(候補に挙がっていたというトム・クルーズだったらどんなだったか観てみたかった!)。

 

 もう伸びない、未来に期待が持てない、となったとき、人間は何をするべきか、どうなるべきなのか。タランティーノ作品ではそんなことに優しい答えなど出してはくれないが、ディカプリオの円熟した芝居、目の動きの一つ一つが人間の変化と成長を見せてくれる。本当に若い頃よりずっといい俳優になったなあ……と偉そうなことを思ってしまう。

 そういう意味で、この作品の内容は非常にシンプルで、むしろ小品と呼んだほうがよいかもしれない。やっていること自体はまるで邦画のような、『生きる』あたりの切なさに印象だけでいえば近いかも知れない。

 

 また、凄みでいえば60年代末のハリウッドとそこで作られていたものを何の違和感もなく再現してみせたことにも驚愕する。町並みが当たり前のように映し出されているが、そこに映っているものは本当なら現在は存在しないはずの光景なのだ。かといって、タランティーノはCGを使いたがらないはず。なので、おそらくほとんどを新しく作り直したのだろう。

 劇中劇もあの時代の映画やドラマのあるあるを上手いこと再現しつつそれっぽいものに仕上がっている。この大変さを一切誇らず、当たり前のことのように画面に映し出していることが凄い。こうした一つ一つによって、確実に映画全体に緊張感が生まれている。妥協がないことの恐ろしさ。そして、このパーフェクトな再現は、「もう一つの現実」を作り出すためには必要不可欠だった。

 

 以下、ラストシーンに言及するので、ネタバレありで。よろしければ観賞後にでも。

 

 

 

*************以下ネタバレあり**************

 

 

 

 さて、あのラスト、シャロン・テート殺害事件(になるはずだった)の話。

 やっていること自体は実は『イングロリアス・バスターズ』と同じだろう。歴史のif。もしもこうだったら、という仮定がもたらす想像以上の暖かさと希望。ただ、今回に関してはヒトラーの惨死とは全く異なる、主人公も歴史の英雄になったという気が全くない「笑い話」エンド。

 これは、史実を知っているか否かで全く印象が違うだろう。ヒトラーがぶっ殺されたら誰だって「やりやがった」と素直に思えるが、マンソンファミリーのことは知らない人は全く知らない(本作自体は知っている人に向けて作られているだろうと思うが)。

 

 人生ぐずぐずになったおっさんふたりが、途方もない救いをもたらしているのだが、本人たちには全然そんな意識はなく、ただただ爆笑の惨殺劇が展開される。百戦錬磨のスタントマンにヒョロいヒッピーが適うわけないので、対戦が決まった瞬間におおよその展開は読めたが、それでもここまでに出てきたさりげない要素がどれもこれもこのシーンのために存在したのだとわかると笑いが止まらなくなる(特に火炎放射器)。

 クズ共ざまぁ、でとてもスッキリしながら、彼ら二人の人生においても大きな結節点になっていて、この奇妙な出来事を通して彼らの「青春」はピリオドを迎え、それでも彼らの友情に変わりはない、ということを描いている、本当に不思議な物語。

 

 そう、本作はことごとく不思議な印象のある作品だった。「起こるかも知れない」悲劇が片っ端から回避されていくのだ。特に中盤の牧場のシーンもそうだが、今にも残酷な事件、辛い出来事が起こるのでは、という予感は随所にあるものの、結果として何も起きずに終わる。むしろ、どれもハッピーな結末を迎える。

 まとめると、この映画は「壮大に何も起こらない」という物語なのだ。随所に大事件が起こりそうな気配は忍び寄るが、結果として何も起こらない。それがなんども何度も波のように反復し、繰り返される。それは最後の最後に、もっとも幸福な形で結実する。

 過去のタランティーノ作品を考えると新しい要素でもあるが、この肩すかし自体が、オッサン二人の諦観溢れる眼差しと重なって感じられる。ショウ・マスト・ゴー・オンではないが、人生はただただ、何が起きても馬鹿馬鹿しく続いていく。「それでも」続いていくのだ、という苦笑い混じりの、大人のおとぎ話だった。

『悪魔のいけにえ』★★★★★

やりすぎると笑えてくる、シンプルイズベストの美しき残虐ホラー

あらすじ

1973年8月18日。真夏のテキサスを5人の若者を乗せて走るワゴン車。周辺では墓荒らしが多発していて、遺体が盗まれるという怪事件が続いていた。フランクリンとサリーは、自分達の祖父の墓が無事かを確認する為、サリーの恋人ジェリー、友人のカークとその恋人パムと一緒にドライブ旅行をしていた。 途中、乗せたヒッチハイカーの男に襲われるハプニングが発生。車を停めて男を降ろすが、これはこの後彼らに降りかかる悲劇の始まりに過ぎなかった。(amazonより)

 

 おっかなびっくり無理して観るホラー映画として、著名な本作をチョイス。どれぐらい怖いのか全く読めず、冷や冷やしながら見始めたが、想像とは異なる方向での作り込みに満足した1作だった。

 

 事前に想像していたのは、とにかくえげつないスプラッタだろう、というイメージだった。しかし観賞してみると、意外なほど血糊や残虐描写が少ない。むしろ演出やじらしでびくびくさせるほうがずっと多く、短い尺の中でむりやり残酷なことをやらなくてもきちんと緊張感を保てている。

 ビックリ系のホラーでもないので、そういう恐怖も感じずに済む。前半はとにかく「これから何か起きそう」といういやな予感だけで引っ張りまくるのだが、これがバリエーションが多いので飽きが来ない。画面に映っている全てが、何かを引き起こしそうな予感に充ち満ちている。

 

 キャラクターが殺す側、殺される側、ともにしっかり立っているのも好印象。正直、殺される若者集団も全然好感が持てないヤツばかりなので、惨殺されても別に何も感じなくてグッド。むしろ殺人鬼集団のほうが人間くさくて、特にレザーフェイスは少し可愛げすらある。

 面白かったのは、殺人鬼一家の設定が、観ていても全く伝わってこなかったところ。一体こいつらは何者なのか、なぜこんなことをしているのか、そもそも何をしているのかすらよくわからない。これは、被害者側と視点を同じにすることで理不尽、不条理な恐怖や絶望を増幅する効果を生んでいる。

 

 得体の知れない田舎にやってきて人里離れた民家で、わけのわからないルールで生きているヤツらに捕まえられて助けもない、という感情を、極めてリアルに再現するには、余計な設定の説明は不要なのだ。目の前で起きたことが全て。

 想像だけさせられるのが、逆に恐怖を煽る(続編ではこの殺人鬼一家の設定が膨らんでいるらしい。もったいない)。レザーフェイスだけが出てきているあたりまではちゃんと怖いのだが、彼ら殺人鬼が全員集合して家族として喋り始めると、とたんに荒唐無稽感がまして笑えてくる。

 

 また特筆すべき点として、映像が美しい点が挙げられる。予算がなくとも哲学がしっかりしていてロケハンを頑張れば、想像を超える画面(ことにラストシーン)を作り出すことも可能なのだ、とわからせてくれる。短いけれど中身はしっかり詰まった良作。

『スパルタンX』★★☆☆☆

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しつこすぎる笑い、話の進まないアクション、好感の持てないヒロイン

あらすじ

スペインのバルセロナ。小粋な町並みを臨むパン屋の2階に下宿するトーマスといとこのデビッドは、町なかの公園広場にキッチン・カーを止め、ハンバーガーやコーヒーを売って日々暮らしていた。今日もスケートボードを軽快に乗りこなして注文を取るトーマスと、車中で料理をこなすデビッド。そんな彼らのもとにある日突然、シルビアという女性が助けを求めて逃げ込んできた……。(YAHOO映画より)

 

 疲れ切った出張の帰り、気軽にジャッキー&サモハンのアクションを観たくて観賞。だが、残念ながら満たされることはなく。

 

 舞台がスペインなのはいいし、悪役もヒロインもヨーロッパ系なのも全然構わない。盛り上がりそうなアクションもたっぷり入っているし、サスペンス要素も詰め込まれている。しかし、今ひとつかみ合わない。

 まず、恒例のコメディ要素が今回はかなりの部分、セリフに依っているのが残念。アクションと表情で想像を超えたシチュエーションを作り出して笑わせてくれるのがジャッキー作品のチャップリン的よさになっているし、海外を舞台にしているからにはなおのことこのワールドワイドな魅力を大切にして欲しかったのに、なぜ変えてしまったのか。

 

 肝心のアクションも空回りが続く。アクションは物語が進む内容でなければ、どれだけ派手であっても効果が薄い。本作はなまじシチュエーションをややこしくしてしまったので、今物語がどうなっているのかわかりにくいのだが、その中に配置されているアクションなので、今この闘いがどういう状況でダレと闘っていて何の意味があるのか把握しづらい。

 悪役も一応登場するのだが、一番悪いヤツの印象が非常に薄い。前半に悪役の正体を伏せ続けているので、キャラを立てる尺が足りてないのだ。

 何より先ほど書いたように、サスペンスとしてのシチュエーションが(無駄に)複雑でわかりづらいのが大きな難点。種が明かされたところで意外性がないのに、設定を伏せておく必要はない。

 

 そして、ヒロインが犯罪を犯しているのも物語の魅力の薄さに拍車を掛ける。別に道徳を語るべきとかヒロインたる者罪を犯してはならないなんて事は全く思わないが、愛情を覚えないといけない対象である以上、やむをえず罪を犯しているのだ、というぐらいには思わせて欲しい。

 これも尺が足りていないせいか、ヒロインがそこまでしてスリをやらないといけない理由がしっくりこないのだ。

 

 この手の甘さが山ほどあるせいで、一見楽しげに見える本作も全然感情移入出来ないまま終わってしまった。すこぶる消化不良。他のジャッキー作品を観るか。

『エクソシスト(ディレクターズカット)』★★★★☆

 子役の圧倒的名演。前ふりの長さへの疑問はあれど、終盤の死闘の圧巻ぶりに満足

あらすじ

12歳の少女リーガンに取り憑いた悪魔を抹殺すべく、エクソシスト(悪魔祓い師)の想像を絶する闘いが始まる。(amazonより)

 

 頑張って苦手なホラーを見ていこうシリーズ第何弾かは忘れたが、とにかく観賞。想像していたのとはいろんな意味で異なる人間ドラマが描かれた作品で驚いた。

 全編を通して素晴らしいのは、やはり悪魔に憑かれる少女を演じる子役である。今さら言うまでもないことだろうが。天真爛漫な冒頭のシーンでは普通の子供が素を見せているようにすら見えるが、後半の悪魔に取り憑かれたあとの芝居を観れば、完全に彼女の達者な演技に取り込まれていたことがわかる。

 

 常軌を逸した動き、表情、絶叫、助けを求める泣き声、どれも目や耳に染みつくほど上手い。彼女を観ているだけで満足出来るほどで、逆に言えば彼女が出てきていないシーンはなかなかじれったさすら感じられる。あの有名な階段ウォークシーンが非常に短いのはこれも驚きだった。

 また、メインの神父役は2人とも存在感が素晴らしい。デミアンの人間としての等身大の悩みを描き続ける展開も想像外で、彼も事実上の主人公だろう。

 

 悩ましかったのは展開の遅さである。肝心の恐怖展開に至るまでが非常にゆったりとしており、何度も医者の元へ足を運んだ挙げ句、悪魔払いを紹介されるまでの長さ、そして悪魔払いを始めるまでの流れは極めて丁寧でリアルなのだが、じれったさはかなりのものがあった。

 実際に現代のアメリカでこんな事態になったらこれぐらいのテンポでないと進展しないと思うのだが、その誠実さは「ホラー映画観るぞ!」とドキドキしている人間にとっては非常にまだるっこしい。まだかまだか、いつ怖くなるんだ、とじわじわじわじわ緊張状態に置かれ続ける。途中まではもしかしたら退屈で終わるかも知れない、とすら感じた。

 

 しかし、終盤の悪魔払いの展開に本格的に移行し、悪魔の動きが本格化しだしてからそのダレ感が一気に恐怖へと転換していく。この非常に長い前半部分、さらに冒頭の日常シーンの丁寧さは、つまり、我々の日常からきちんとこの異常へとつなげるために必要不可欠なフリだったのだ。

「びっくり」で怖がらせ驚かせるためなら簡単に話を早めることができたろうが、本作はそれをせず、きちんと「現実世界」で起きる、他人事ではない恐怖として悪魔憑きを描いた。そのためには、この長尺が必要だったのだ。身近な誰かの身に起きたらどんな気持ちになるか。それを観客に味わわせるためには、ありていな「ホラー映画」の枠の中に飲み込ませてはならなかった。

 登場人物は全員、ちゃんとした人間として魅力的な人間として描かれ、そして彼らの日常が失われていく。奪うのは理由も意味もわからぬ「悪魔」である。

 

 最後まで観ても意図のわからない部分、意味のわからない部分が山ほど残るのも、本作の特徴だろう。本当に怖いものは、意味がわからないものだ。説明がつかないところに引っかかりが残り、それが観賞後にも客の脳内にこびりつく。

 サブリミナルに入れ込まれた悪魔の表情のように、「あれは一体何だったのだろう」という疑問は、いつまでも心に残っている。怖いというよりビックリするというより、これはやはり、厭な存在・「悪魔」を描いた作品なのだろう。

『仁義なき戦い』★★★★☆

仁義なき戦い

仁義なき戦い

 

 戦後の動乱期のヤクザ者の生き様を活写&広島弁の快楽

 

あらすじ

終戦直後の呉。広能昌三は復員後、遊び人の群れに身を投じていたが、山守組々長・山守義雄はその度胸と気風の良さに感心し、広能を身内にした。まだ小勢力だった山守組は、土居組との抗争に全力を注ぐのだった。その土居組を破門された若頭・若杉が、山守組に加入。若杉による土居殺害計画が進む・・・。(amazonより)

 

 ヤクザ映画はあまり観てきておらず、せいぜい『アウトレイジ』ぐらいのもの。名作と名高い本作をようやく観て、ああ、こっちが元ネタか、と納得いった。あの有名なテーマ曲も、この作品のものだとはちゃんと認識していなかった。恥ずかしい。

 まず冒頭の呉の描写を観て、『この世界の片隅に』の数ヶ月後にはこんなことが同じ場所で起きていたのか・・・・となんとも言えない気持ちに(笑)。まあどちらも現実だろう。闇市の大きなオープンセットに、結構金の掛かった映画だと驚く。

 

 ストーリーの軸自体は非常にシンプルで、「誠実な主人公が、老獪あるいは愚かな人々の政治抗争に巻き込まれ翻弄され、最後まで誠実に孤独に去って行く」という類型。政治的な要素が含まれている作品だと、よほどひねったもの(主人公がトリックスターとか)でなければこういうストーリーになるだろう。

 菅原文太演じる主人公の終始寂しげな表情が魅力的で、その分、周囲の金と権力にまみれた人々の薄汚さが際立って面白い。個人的には田中邦衛演じるやくざの小物感が笑えてよかった。群像劇としては意外なほど複雑で、誰がどの組織に所属しているのか、それぞれがどんな関係性にあるのかはそれなりに頑張って把握しようとしなければならない。

 

アウトレイジ』は裏の世界の薄汚さ、愚かしさを(極端すぎる暴力、一見かっこうよさそうに見える主人公も含めて)笑い・嗤いの対象として描写しているが、本作ではあくまでヤクザものをかっこうよく描こうとしている(やっていること自体はわりと狭い範囲での利権争いなのだが)。

 これを身近に感じ、共感・感情移入出来るかどうかが、本作に深くのめり込めるかどうかの分水嶺になるだろう。筆者はどうしても、一歩引いて観てしまう。情にほだされてしまう人物が居る分、『アウトレイジ』より本作のほうが視線が優しいとも言えるだろう。

 それと、飛び交う広島弁は正直かなりの部分わからなかったのだが、それでも充分楽しんで観賞可能。真似したくなりますね。シリーズをこれから全部観るのが楽しみ。

『ライアー・ライアー』★★★☆☆

ライアー・ライアー (字幕版)
 

ひたすら笑わせるベタすぎるくらいのハートウォーミングコメディ。でもこういうのいいよね

あらすじ

ウソが得意な弁護士が、息子の誕生日の願い事によって1日だけウソをつけない体になってしまったことから大騒動が巻き起こるハートフルコメディ。(amazon.comより)

 

 期待通りの「昔懐かしハリウッド式ハートウォーミングコメディ」。ベタすぎて苦笑するところも多々あるが、でも子供の頃、好きだったのはこういう笑いだった気もする。

 なにしろ主演がジム・キャリーなので、オーバーアクト連発で力業の笑いを取ってくる。ノリにノッている時期だったというのもあって芝居はキレキレだが、今の視点から見ると小っ恥ずかしい顔芸や動きも多い。とはいえそれでも笑わせてくるのはさすがだったが。

 

 筋立てはあらすじに書いたとおりで、これ以上でも以下でもないし、このあらすじから想像するとおりのストーリーが展開される。期待は一切裏切られない。嘘をつけなくなった嘘つきがどう苦しみ、どう変化していくかが息子への愛を軸に描かれていく。

 ただ、主演俳優に意地悪い要素が全然ないので、嘘つきと言っても不愉快な類いではない。むしろ愛され系でお調子者で、悪気があって嘘を吐くと言うより目の前の人を喜ばせたいがために出任せを言うタイプ。なので、『クリスマスキャロル』的な変化を期待すると肩すかしを食らうかも。

 

 また、ネタの広がりを考えると尺が足りていないかも知れない。ファミリームービーなので100分程度に抑えたかったのだろうが、まだまだやれることは多いし、嘘をつけなくなった影響で周囲に巻き起こる事態はもっとたくさんあっただろう。

 秘書との関係性なども書き込みが足りず、何が起きているのかよくわからないし、肝心の裁判もいまいち収拾つかずに終わったように感じられる。今リメイクしたら、「嘘をつけない」というテーマはかなり広がりを持たせられるだろう。大統領を主役にして、ぐらいのことを今のハリウッドならやるかも知れない(笑)。

 

 だが、もちろん本作も悪くはない。こういうただ笑えるだけで終われる気持ちのいい映画(ポップで愉快なオーケストラBGM付き)は、最近本当に少なくなったように思う。たまにはこういう、クリスマスにでも観られそうな作品に出会いたい。

 ・・・・意外と平気で下ネタエロネタも突っ込んでくるので(全然えぐくはないけど)、小さいお子さんが居る場合はご注意を。

『バニラ・スカイ』★★★★☆

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ヒロイン二人の圧倒的存在感。しかし、これはトム・クルーズが演じるべきだったのか?

あらすじ
美貌と富と才能を兼ね備えた出版会の若き実力者、デヴィッド。マンハッタンの豪邸に暮らし、ベッドには美しい金髪の女性歌手ジュリーがいる。誰もが羨むような毎日を過ごすデヴィッドが、ある日運命の女性ソフィアと出会ってしまう。しかしその瞬間から彼の運命は思いもよらない方向へ転がりはじめる。愛、セックス、憎しみ、夢、友情、仕事…、嵐のように降りかかる出来事の果てにデヴィッドが目にしたものは…。 (amazonより)

 

 筆者はトム・クルーズのファンで、トムが出ているというだけで映画を観ようと思うぐらいには好きなのだが、本作に関しては「果たしてこれはトムであるべきだったのか?」という印象を拭えなかった。

 

 まず素晴らしいのはヒロイン二人の熱演。ペネロペ・クルス演じるヒロインはまさしく女神という美しさと愛らしさで、トム・クルーズという非常に独特の存在感を持つ主人公と相対しても全く負けない魅力がある。

 彼女の演技や立ち居振る舞いは、シナリオ上の事情で特殊な条件を大量に求められるのだが、その求めにしっかりと答えている。

 

 また、キャメロン・ディアス演じるもう一人のヒロインも同格に素晴らしい。非常に難しい役を幅の広い演技力でカバーしきっている彼女がいるからこそ、本作は成立している。カート・ラッセル演じる精神科医も絶妙で、金持ちの夢のような生活が連発される本作の中で「現実感」を差し込むことに成功している。

 

 と、非常に繊細な内容を見事なキャストによってギリギリのところで成り立たせている作品で、個人的にも描かれている内容はとても好みなのだが、唯一気になったのが肝心要のトム・クルーズである。

 

 筆者は、ある時期からトムが異常なまでに過激なアクションばかりをこなすアクション俳優に成り果てたのか(いや、それが大好きなのだが)が不思議でならなかったのだが(若い頃は演技で充分名を馳せていた)、本作を見てそれが良くわかった気がする。
 トムは演技、感情表現などは大いに豊かなのだが、一般の観客が感情移入するべきキャラクターを演じるのが上手くない。特に本作の場合はその共感が非常に重要な要素になってくるが、この主人公のことを憐れむべき人物とみなせるか、愚か者とみなすかは人によって大きく異なってくるだろう。

 

 筆者は最後まで微妙なラインだった。「嫌いにはなれない、しかし好感も持てない」、というのが正直な印象。
 現在のトム・クルーズが演じているのは、いずれも感情移入の必要がないスーパーヒーローか、異形の人物。たまに『宇宙戦争』のように普通の父親を演じてみようとすると総すかんを食らう(個人的には好きな映画なのだが)。あの特有のクルーズ・スマイルがなじむような役を探すのはなかなか骨が折れそう。

 

 物語全体にたゆたう雰囲気、映像作りも含めて本作はとても素晴らしい。だが、主演がトムじゃなければもっと好きになっていたかも・・・・とは、正直思う・・・・でも、それだと引っかかりがなさすぎる普通の良作になってしまっていたのだろうか。

 例えば主演がジェイク・ギレンホールだったら? ロバート・ダウニー・ジュニアだったら? クリスチャン・ベールだったら(これはいいかもしれない)? 悩ましいところだ。★一個欠けてしまったのは、この今一歩の食い足りなさにある。

 

(追記:どうしてトムでこの話を、当て書きなのか?と思って調べてみると、案の定、これはスペイン作品のリメイクらしい。元ネタでもヒロインはペネロペ・クルス。そちらもいつか観てみようと思う。下が原作の映画)

オープン・ユア・アイズ

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