『バニラ・スカイ』★★★★☆
ヒロイン二人の圧倒的存在感。しかし、これはトム・クルーズが演じるべきだったのか?
あらすじ
美貌と富と才能を兼ね備えた出版会の若き実力者、デヴィッド。マンハッタンの豪邸に暮らし、ベッドには美しい金髪の女性歌手ジュリーがいる。誰もが羨むような毎日を過ごすデヴィッドが、ある日運命の女性ソフィアと出会ってしまう。しかしその瞬間から彼の運命は思いもよらない方向へ転がりはじめる。愛、セックス、憎しみ、夢、友情、仕事…、嵐のように降りかかる出来事の果てにデヴィッドが目にしたものは…。 (amazonより)
筆者はトム・クルーズのファンで、トムが出ているというだけで映画を観ようと思うぐらいには好きなのだが、本作に関しては「果たしてこれはトムであるべきだったのか?」という印象を拭えなかった。
まず素晴らしいのはヒロイン二人の熱演。ペネロペ・クルス演じるヒロインはまさしく女神という美しさと愛らしさで、トム・クルーズという非常に独特の存在感を持つ主人公と相対しても全く負けない魅力がある。
彼女の演技や立ち居振る舞いは、シナリオ上の事情で特殊な条件を大量に求められるのだが、その求めにしっかりと答えている。
また、キャメロン・ディアス演じるもう一人のヒロインも同格に素晴らしい。非常に難しい役を幅の広い演技力でカバーしきっている彼女がいるからこそ、本作は成立している。カート・ラッセル演じる精神科医も絶妙で、金持ちの夢のような生活が連発される本作の中で「現実感」を差し込むことに成功している。
と、非常に繊細な内容を見事なキャストによってギリギリのところで成り立たせている作品で、個人的にも描かれている内容はとても好みなのだが、唯一気になったのが肝心要のトム・クルーズである。
筆者は、ある時期からトムが異常なまでに過激なアクションばかりをこなすアクション俳優に成り果てたのか(いや、それが大好きなのだが)が不思議でならなかったのだが(若い頃は演技で充分名を馳せていた)、本作を見てそれが良くわかった気がする。
トムは演技、感情表現などは大いに豊かなのだが、一般の観客が感情移入するべきキャラクターを演じるのが上手くない。特に本作の場合はその共感が非常に重要な要素になってくるが、この主人公のことを憐れむべき人物とみなせるか、愚か者とみなすかは人によって大きく異なってくるだろう。
筆者は最後まで微妙なラインだった。「嫌いにはなれない、しかし好感も持てない」、というのが正直な印象。
現在のトム・クルーズが演じているのは、いずれも感情移入の必要がないスーパーヒーローか、異形の人物。たまに『宇宙戦争』のように普通の父親を演じてみようとすると総すかんを食らう(個人的には好きな映画なのだが)。あの特有のクルーズ・スマイルがなじむような役を探すのはなかなか骨が折れそう。
物語全体にたゆたう雰囲気、映像作りも含めて本作はとても素晴らしい。だが、主演がトムじゃなければもっと好きになっていたかも・・・・とは、正直思う・・・・でも、それだと引っかかりがなさすぎる普通の良作になってしまっていたのだろうか。
例えば主演がジェイク・ギレンホールだったら? ロバート・ダウニー・ジュニアだったら? クリスチャン・ベールだったら(これはいいかもしれない)? 悩ましいところだ。★一個欠けてしまったのは、この今一歩の食い足りなさにある。
(追記:どうしてトムでこの話を、当て書きなのか?と思って調べてみると、案の定、これはスペイン作品のリメイクらしい。元ネタでもヒロインはペネロペ・クルス。そちらもいつか観てみようと思う。下が原作の映画)